ホンダが誇るアドベンチャーバイクの雄、アフリカツイン。
その雄大なスタイリングと信頼性から、多くのライダーの憧れの的となっています。しかし、その一方で「アフリカツインは優等生だからつまらない」という声が聞かれるのもまた事実です。
この記事では、なぜそのような評価が生まれるのか、その理由を深く、そして多角的に探っていきます。まず知りたいのは、アフリカツインがつまらないと評される具体的な理由でしょう。
巷で言われる「速い」という評判とは裏腹に、実際に乗って感じる期待を裏切る加速とパワーの感想や、革新的な機構であるDCTは本当に快適かという問いに対する、時には後悔した体験談にも切り込みます。
多くのメディアが絶賛するロングツーリングの快適性という評価に潜む罠、そして絶対的王者BMW GSとの比較で分かる、果たしてどっちを選ぶべきかという究極の選択についても考察します。さらに、この記事は購入後に分かるアフリカツインのつまらない欠点にも光を当てます。
230kgを超えるその重量は女性でも可能なのか、そして安全なバイクライフに必須となる立ちごけ対策とは。初心者におすすめとは言えない明確な理由や、日本の道路事情における都市部のすり抜けのしやすさが期待外れである現実、さらには維持費と燃費、リアルなコストに後悔しないための情報まで。
中古で買う前に絶対に知るべき選び方の注意点も網羅し、最後に総括として、これがアフリカツインのつまらない欠点まとめをお届けします。
この記事は、あなたがアフリカツインというバイクの本質を理解し、後悔のない選択をするための一助となることをお約束します。
- なぜアフリカツインが「つまらない」という評価を受けるのか、その構造的な理由
- DCTやエンジン特性など、技術的な側面から見たメリットと、それが生み出すデメリット
- ライバル車との徹底比較から浮き彫りになる、アフリカツインならではの「物足りなさ」
- 購入後の維持費や取り回しなど、現実的な問題点で後悔しないための具体的な対策
アフリカツインは「優等生」だからつまらない?その理由とは
- まず知りたい、アフリカツインがつまらない理由
- 速い?期待を裏切る加速とパワーの感想
- DCTは本当に快適か?後悔した体験談
- ロングツーリングの快適性という評価の罠
- GSとの比較で分かる、どっちを選ぶべきか
まず知りたい、アフリカツインがつまらない理由
アフリカツインが一部のライダーから「つまらない」と評されてしまう最大の理由は、逆説的ですが、そのあまりにも高い完成度と、ホンダというメーカーが貫く「中庸の美」というバイク作りの哲学に起因します。
言ってしまえば、アフリカツインはどの項目においても85点以上を叩き出す、極めて優秀な「優等生」なのです。
しかし、バイクという乗り物に趣味性や官能性を求める層にとって、その欠点のなさが、逆に突出した魅力の欠如、すなわち「没個性」と映ってしまうのです。
ここで言う「刺激」や「面白さ」とは何でしょうか。具体的には、以下のような要素が挙げられます。
- エンジンからの直接的な鼓動感: ドゥカティのLツインやハーレーダビッドソンのVツインが放つような、心臓を揺さぶるパルス感。
- 官能的な吸排気音: 高回転域で奏でられるマルチエンジン特有の快音や、計算され尽くしたエキゾーストノート。
- シャープで過敏なハンドリング: ライダーの微細な入力に即座に反応する、切れ味の鋭いコーナリング性能。
- 意のままに操る感覚: 機械的なクセやピーキーな部分を、乗り手が技術でねじ伏せ、克服していく過程の楽しみ。
アフリカツインは、これらの要素を意図的に洗練させ、あるいは角を丸めて、誰が乗っても安全で快適に長距離を移動できるツールへと昇華させています。
これはマスプロダクトを製造するメーカーとして非常に正しい姿勢であり、多くのユーザーに恩恵をもたらしています。
しかし、KTMが標榜する「READY TO RACE」のような先鋭的なキャラクターや、トライアンフが醸し出す伝統とモダンが融合した洒落っ気のような、強烈なブランドカラーや「癖(あく)」は希薄です。
私自身、様々なメーカーのバイクを乗り継いできましたが、ホンダ車はまるで非の打ち所がない優秀な執事のようです。
常に先回りしてライダーの負担を軽減し、完璧に仕事をこなしてくれます。しかし、長年連れ添ううちに、時折、少し手のかかる「やんちゃな相棒」が恋しくなる瞬間があるのです。
アフリカツインには、このライダーを挑発するような『やんちゃさ』が少し足りないのかもしれません。これが「優等生すぎて、つまらない」という評価の正体だと私は考えています。
「つまらない」と感じる人の主な傾向
特に、バイクにスリルや刺激、特定の性能に特化した先鋭的な面白さを求めるライダーや、バイクとの対話、機械を操る手応えそのものを最優先するベテラン層からは、「何でもそつなくこなすけど、心に突き刺さる何かが足りない」という印象を持たれがちです。
この感覚こそが、「アフリカツインはつまらない」という評判の根源と言えるでしょう。
結局のところ、アフリカツインがつまらないと感じるかどうかは、ライダーがバイクに「完璧な道具としての性能」を求めるのか、それとも「不完全さも含めた相棒としての個性」を求めるのか、その価値観に大きく左右されるのです。
速い?期待を裏切る加速とパワーの感想
アフリカツインのスペックシートに輝く「1082cc」という排気量。
この数字だけを見れば、多くのライダーはスロットル一捻りで景色が歪むような、怒涛の加速を想像するのではないでしょうか。
しかし、実際に跨り、右手を捻った瞬間に抱く感想は、その期待とは少し、いや、かなり異なるものであることが多いのです。
結論から言えば、アフリカツインは「速い」ですが、それは「刺激的な速さ」ではなく、「効率的でジェントルな速さ」です。
このギャップこそが、「期待外れだった」「つまらない」という感想の核心にあります。
270度位相クランクがもたらす独特のフィーリング
この乗り味を理解する上で欠かせないのが、エンジン形式です。アフリカツインが採用するのは、水冷4ストロークOHC4バルブ並列2気筒エンジンですが、ただの並列2気筒ではありません。
クランクシャフトを270度ずらした「270度位相クランク」を採用しているのが最大の特徴です。
これは不等間隔爆発を生み出し、V型2気筒エンジンのような「ドコドコ」という独特のパルス感と、優れたトラクション性能(路面に駆動力を伝える能力)を獲得するための技術です。
このエンジンは「低速域からの力強いトルクと高回転域までの扱いやすい出力特性」を目指して開発されたと言及されています。
つまり、このエンジンは最高出力を追い求めるのではなく、いかにライダーが安心してスロットルを開けられるか、いかに悪路でリアタイヤを滑らせずに前へ進めるか、という点を最優先に設計されているのです。
そのため、102PS/7,500rpmという最高出力は、KTM 1290 Super Adventure S(160PS)やDucati Multistrada V4(170PS)といった同クラスのライバル達と比較すると、明らかに控えめな数値です。
この設計思想の違いが、体感的な加速感の差となって現れます。
私が初めてCRF1100Lに試乗した時のことを今でも鮮明に覚えています。高速道路の合流で、ライディングモードを「TOUR」に設定し、思い切ってスロットルを全開にしました。
確かに速度計の数字は驚くほどの勢いで上昇していきます。しかし、体感的には恐怖を感じるような暴力性は皆無。
まるで後ろから巨大な手で、しかし滑らかに押し出されるような、極めて上質で安定した加速でした。これは絶大な安心感を与えてくれますが、同時にアドレナリンが沸き立つような興奮とは無縁でした。
「これがアフリカツインの世界か…」と、そのあまりのジェントルさに、少し肩透かしを食らったのが正直な感想です。
ライディングモードとDCTが加速感をさらにマイルドに
近年のアフリカツインには、スロットル・バイ・ワイヤ(TBW)が搭載され、複数のライディングモードが選択できます。
最もスポーティな「TOUR」モードにすれば、確かに出力特性やレスポンスは鋭くなりますが、それでもあくまで「コントロールの範疇」を逸脱しません。
他メーカーの最も過激なモードに見られるような、フロントが浮き上がるような荒々しさは巧みに制御されています。
さらに、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)モデルは、このマイルドな加速感をさらに助長します。
シフトアップ・ダウンが完全にシームレスに行われるため、MT車にあるような変速時のわずかなショックやエンジン回転数の変動による「加速の段付き」がありません。
滑らかすぎて、いつの間にか速度が出ているという感覚は、快適である一方、ライダーが自らマシンを操り、パワーバンドを維持して加速させていくという、スポーツライディングの醍醐味を大きく削いでいます。
結局のところ、アフリカツインのパワーフィールは、長距離を疲れず、安全に、そして確実に移動するための「旅の道具」として最適化された結果なのです。
しかし、その過程にスリルや興奮というスパイスを求めるライダーにとっては、その完成度の高さが、かえって物足りなさとなり、「期待を裏切るパワー感」「つまらないエンジン」という評価に繋がってしまう、というわけです。
DCTは本当に快適か?後悔した体験談
ホンダが誇る先進技術の結晶、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)
アフリカツインを選択するライダーの半数以上がこのDCTモデルを選ぶと言われるほど、今やこのバイクを象徴する装備となっています。
クラッチレバーとシフトペダルを過去のものとし、AT(オートマチック)モードではスロットル操作だけでバイクが最適なギアを選んでくれる。
この革新的なシステムは、特に長距離ツーリングや渋滞路での疲労軽減において、計り知れない恩恵をもたらすことは間違いありません。
しかし、その圧倒的な快適性の裏側で、「DCTを選んで後悔した」「バイクの楽しみが半減した」という声が、決して少なくないのもまた事実なのです。
失われる「操る楽しさ」という根源的な欲求
DCTがもたらす最大のデメリット、それは「ライダーの介在する余地を奪うこと」に尽きます。
バイクライディングの根源的な楽しみの一つは、エンジン回転数、速度、路面状況を五感で感じ取り、左手でクラッチを操作し、左足でギアを選択するという、人間と機械の一体感にあります。
この「操作する」という行為そのものが、バイクという乗り物を趣味たらしめている重要な要素なのです。
DCTはこの「操作」を、ライダーに代わってコンピューターが実行します。
もちろん、その制御は極めて高度で、ほとんどの場面で人間よりもスムーズかつ効率的なシフトチェンジを行ってくれます。
しかし、その完璧さゆえに、ライダーはプロセスの主役から観客へと追いやられてしまうのです。自分でエンジン回転数を合わせ、ヒール・アンド・トウのようにシフトダウンを決める快感。
半クラッチを使って、じわりと駆動力をコントロールする繊細な作業。
これらの行為から得られる達成感や満足感が、DCTでは根本的に得られません。
私のかつてのツーリング仲間の一人に、長年マニュアル車を乗り継いできたベテランライダーがいました。
彼が満を持してアフリカツインのDCTモデルに乗り換えたのですが、半年も経たないうちに手放してしまったのです。
理由を尋ねると、「最初は天国だと思った。左手がこんなに楽だなんて、もうMTには戻れないと。でも、慣れてくると無性にクラッチレバーが恋しくなるんだ。
ワインディングで、自分のタイミングでスパッとシフトダウンしたいのに、バイク任せだとワンテンポ遅れる気がして気持ちが悪い。
結局、バイクに乗せられてるだけの自分が嫌になった」と語っていました。これはまさに、DCTの本質を突いた体験談だと思います。
思い通りにならない「マニュアルモード」のジレンマ
もちろん、DCTにはライダーが任意でシフトチェンジできる「マニュアルモード」が備わっています。
ハンドル左側のスイッチでシフトアップ・ダウンが可能ですが、これもまた、MT車乗りの欲求を完全に満たすものではありません。
なぜなら、そこには「クラッチ操作」が存在しないからです。
例えば、タイトなコーナーの進入で、エンジンブレーキを積極的に使いたい場面。
MT車ならクラッチをスパッと繋ぐことで、意図的にリアに荷重をかけ、車体の向きを変えるきっかけを作ることができます。
しかし、DCTのマニュアルモードでは、あくまで変速の「リクエスト」を送るだけであり、変速のスピードやクラッチの繋がり方はコンピューターに委ねられています。この、ダイレクト感の欠如が、スポーツライディングにおいては大きな違和感となるのです。
「自分で操っているようで、実は操れていない」というジレンマは、多くの元MT乗りを悩ませます。
エンストしないことの弊害とは
DCTの大きなメリットとして「エンストしない」ことが挙げられます。
これは初心者やUターンが苦手なライダーにとっては福音ですが、オフロード走行においては、必ずしもメリットだけではありません。
上級者は、ぬかるんだ路面や急な登りで意図的にクラッチを切り、エンジンの回転数を上げてから一気に繋ぐ「クラッチミート」というテクニックを使い、瞬間的なトラクションを得ることがあります。
また、敢えてエンストさせてバイクをその場に固定するような場面もあります。DCTでは、こうした「クラッチがあるからこそできる高度なテクニック」が使えないのです。
このように、DCTは快適性という一点において他の追随を許さない圧倒的なメリットを持っています。
しかし、その快適性と引き換えに、バイクを「操る」という官能的な楽しみや、高度なテクニックを駆使する自由度を少なからず犠牲にしています。
このトレードオフを理解せずに「楽だから」という理由だけでDCTを選ぶと、「こんなはずではなかった」と後悔する可能性を秘めているのです。
ロングツーリングの快適性という評価の罠
「アフリカツインは最高の相棒だ。一日1,000km走っても疲れ知らずで、どこまでも行ける気にさせてくれる」
バイク雑誌のインプレッションやオーナーのブログでは、このような賛辞が溢れています。
そして、それは紛れもない事実です。優れたウインドプロテクション、アップライトで自然なライディングポジション、振動の少ないエンジン、そしてしなやかに路面をいなすサスペンション。
これら全てが高度に調和し、アフリカツインは現代のバイクにおける「快適性」の一つの頂点を極めていると言っても過言ではありません。
しかし、皮肉なことに、この完璧すぎるほどの「快適性」こそが、一部のライダーを「退屈」という名の罠に陥れることがあるのです。
快適すぎるがゆえに希薄になる「バイクとの対話」
そもそも、バイクに乗るという行為の本質的な魅力とは何でしょうか。
目的地へ移動する効率だけを求めるなら、車の方がはるかに快適で安全です。
それでも私たちがバイクを選ぶのは、その移動のプロセス自体に喜びを見出すからです。
風を肌で感じ、エンジンの鼓動を体で受け止め、路面の凹凸をハンドルを通じて読み取る。
こうした五感を通じた「バイクとの対話」こそが、ライディングの醍醐味です。
アフリカツインは、その優れた設計によって、ライダーを不快にさせる要素をことごとく取り除いています。
大型スクリーンは走行風を巧みに後方へ流し、ライダーを静かな空間に保ちます。
バランサーの効いたエンジンは、手に伝わる微振動を極限まで抑え込みます。
そして、長いストロークを持つサスペンションは、アスファルトの継ぎ目や多少の荒れなど、まるで存在しなかったかのように吸収してしまいます。
この結果、ライダーはまるで「上質な絨毯の上を滑るように」移動することが可能になります。これは素晴らしいことですが、同時に、バイクを操縦しているというダイレクトな感覚や、地面を蹴って進んでいるという実感までが希薄になってしまうのです。
路面状況が掴みにくいため、コーナリング中にどこまでバンクさせられるのか不安になったり、あまりに静かで振動が少ないため、自分がどれくらいの速度で走っているのか感覚が麻痺してしまったり。
こうしたインフォメーションの少なさが、結果としてライダーの集中力を散漫にさせ、「ただ移動しているだけ」という退屈な時間をもたらすことがあります。
ある長距離ライダーがこんなことを言っていました。
「昔乗っていた空冷のバイクは、300kmも走れば手は痺れ、腰は痛み、ヘトヘトになった。
でも、走り終えた後の達成感と、マシンと一体になって困難を乗り越えたという満足感は何物にも代えがたかった。アフリカツインは1,000km走っても疲れない。
でも、走り終えても何も心に残らないんだ。まるで新幹線で移動したみたいにね」と。これは非常に示唆に富んだ言葉だと思います。快適性は、時として感動を奪うのです。
「旅の道具」としての完成度と「趣味の乗り物」としての物足りなさ
アフリカツインは、「A地点からB地点へ、ライダーを安全かつ快適に運ぶ」という「旅の道具」としては、ほぼ完璧な存在です。
荒れた路面も、高速道路も、ワインディングも、全てを平均点以上にこなします。しかし、「趣味の乗り物」として見た場合、その万能性がかえって仇となります。
ワインディングでは、もっと軽快にひらひらと駆け抜けたい。
高速道路では、もっと胸のすくような加速感が欲しい。
オフロードでは、もっと車体を振り回せる軽さが欲しい。それぞれのシチュエーションで、「もっとこうだったら」という物足りなさを感じてしまうのです。
この「物足りなさ」の集積が、「つまらない」という評価に繋がります。
特に、バイクに単一の、しかし強烈な個性を求めるライダーにとって、アフリカツインのオールマイティな性能は、中途半端で魅力に欠けるものと映ってしまう可能性があります。
結論として、「ロングツーリングの快適性」というアフリカツイン最大の美点は、ライダーがバイクに何を求めるかによって、その評価が180度変わりうる諸刃の剣なのです。
移動の安楽さを最優先するのか、それとも道中の刺激や感動を重視するのか。この自問自答こそが、アフリカツインを選ぶ上で最も重要なプロセスと言えるでしょう。
GSとの比較で分かる、どっちを選ぶべきか
「アドベンチャーバイクの王者は?」と問われれば、世界中の多くのライダーがその名を挙げるであろう、BMWのGSシリーズ。
長年にわたりこのカテゴリーに君臨し続ける絶対的な存在です。アフリカツインを語る上で、この偉大なライバルとの比較は避けて通れません。
そして、この2台を天秤にかけることで、アフリカツインが持つ本質的なキャラクターと、なぜそれが一部のライダーにとって「つまらない」と感じられてしまうのかが、より鮮明に浮かび上がってきます。
結論から言えば、GSが放つ「圧倒的な個性とステータス性」に対し、アフリカツインは「実直でバランスの取れた実用性」で勝負しており、そのキャラクターの違いが選択の決め手となります。
エンジン形式が象徴する設計思想の違い
両車のキャラクターを最も象徴しているのが、心臓部であるエンジンです。BMW GSが伝統的に採用するのは、車体の左右にシリンダーが突き出した「水平対向2気筒(ボクサーエンジン)」です。
参照:BMW Motorrad公式サイト ボクサーエンジン解説
この唯一無二の形式は、低重心による安定したハンドリングと、独特の「ドゥルルルン」という牧歌的でありながらも重厚な鼓動感を生み出します。
アクセルを開ければ、車体を左右に揺さぶるようなトルク変動を感じさせながら、巨体を猛然と押し出す。このフィーリングは極めて個性的であり、一度これに魅了されると他のバイクでは満足できなくなる「ボクサー信者」と呼ばれる人々を生み出すほど、強烈な麻薬性を持っています。
対して、アフリカツインの「270度位相クランク並列2気筒」は、前述の通り、極めてスムーズで洗練されています。
トラクション性能に優れ、振動も少ない。技術的には非常に高度で合理的ですが、GSのボクサーエンジンが持つような官能性や分かりやすい「味」は希薄です。
乗り比べると、GSはまるで生き物のような荒々しさを感じさせるのに対し、アフリカツインは精密な機械のように滑らかに仕事をこなす、という印象を抱くでしょう。
項目 | ホンダ アフリカツイン Adventure Sports ES | BMW R1250GS Adventure |
---|---|---|
エンジン | 並列2気筒(スムーズ、効率的、洗練) | 水平対向2気筒(個性的、鼓動感、重厚) |
キャラクター | 実直な優等生(信頼性、バランス、扱いやすさ) | カテゴリーの王者(ステータス、豪華装備、所有欲) |
得意分野 | オフロードでの軽快感・走破性 | 高速巡航の安定性・快適なタンデム性能 |
ブランドイメージ | 世界のHONDA。信頼と安心の象徴。 | 駆けぬける歓び。プレミアムブランドの頂点。 |
「つまらない」と感じる可能性 | 個性が弱く、刺激を求める層には物足りない。 | 価格や維持費、大きさがネック。乗り手を選ぶ。 |
所有欲とステータス性という見えざる価値
バイク選びは、性能やスペックだけで決まるものではありません。
そのバイクを所有することで得られる満足感、いわゆる「所有欲」も重要な要素です。
この点において、BMW GSは圧倒的な強みを持ちます。BMWというプレミアムブランドの最上級アドベンチャーモデルに乗っているという事実は、多くのライダーにとって大きなステータスとなります。
豪華な電子制御サスペンション(ESA)、視認性の高い大型TFTメーター、キーレスライドなど、先進的で豪華な装備も所有欲をくすぐります。
正直に告白すると、私もGSに乗るライダーを見ると、どこか羨望の眼差しで見てしまうことがあります。
それは単にバイクの性能だけでなく、そのバイクが持つ歴史やブランド力、そしてそれを選択したライダーのライフスタイルまで含めて「カッコいい」と感じてしまうからです。
アフリカツインも素晴らしいバイクですが、GSが放つような「特別なオーラ」や「選ばれし者の乗り物」といった感覚は少し薄いように感じます。
この差が、趣味性の高い乗り物においては、決定的な選択理由になることがあるのです。
では、どっちを選ぶべきか。この問いに対する答えは、あなたがバイクに何を一番に求めるかによって決まります。
- GSを選ぶべき人: バイクに絶対的なステータス性や所有欲を求める人。ボクサーエンジンという唯一無二の個性に惚れ込んだ人。タンデムでのロングツーリングを快適に楽しみたい人。
- アフリカツインを選ぶべき人: オフロードでの走破性や軽快感を重視する人。過剰な装備よりも、シンプルで信頼性の高い「道具」としての性能を求める人。DCTという先進的な機構に魅力を感じる人。
もしあなたが、バイクに分かりやすい個性や圧倒的な存在感、そして乗っていること自体が誇りとなるような体験を求めるのであれば、アフリカツインはその期待に応えられず、「やはりGSにしておけばよかった」と後悔するかもしれません。
その実直さ、バランスの良さこそがアフリカツインの美点ですが、それは同時に、GSが持つ強烈な魅力の前では「つまらない」と映ってしまう危険性を、常に内包しているのです。
購入後に分かるアフリカツインのつまらない欠点
- 重量は女性でも可能?必須の立ちごけ対策
- 初心者におすすめとは言えない明確な理由
- 都市部のすり抜けのしやすさは期待外れ
- 維持費と燃費、リアルなコストに後悔
- 中古で買う前に知るべき選び方の注意点
- 総括:これがアフリカツインのつまらない欠点まとめ
重量は女性でも可能?必須の立ちごけ対策
ショールームで輝くアフリカツインを前に、多くのライダーが夢を膨らませます。
しかし、いざ跨ってみて最初に直面する現実、それが絶望的とも言える「重量」と「シート高」の壁です。
アフリカツイン(CRF1100L)の装備重量はスタンダードモデルでも229kg、大容量タンクとDCTを装備したAdventure Sports ES DCTに至っては253kgにも達します。
(参照:Honda公式サイト 主要諸元)
これは成人男性2人以上の重さに相当し、この巨体を自分の身体一つで支えなければならないという事実は、特に体格に恵まれないライダーや女性にとって、購入を躊躇させる最大の要因となります。
「立ちごけ」はもはや宿命か?
「走り出してしまえば重さは感じない」とはよく言われる言葉ですが、問題は走り出す前と、止まる瞬間に集約されています。
アフリカツインのシート高は標準で850mm(ローポジション時)と、国産バイクの中でもトップクラスの高さです。
身長170cmのライダーでも両足の踵までべったりと接地することは難しく、少しでも路面が傾いていたり、砂利が浮いていたりすると、足を取られてバランスを崩しやすくなります。
一度バランスを崩せば、230kgを超える鉄の塊が容赦無く襲いかかってきます。
これを腕力や脚力だけで支えきるのは至難の業。結果として、為す術なく地面に倒れ込む「立ちごけ」を経験するライダーは後を絶ちません。
立ちごけは、カウルやウインカーの破損といった金銭的なダメージはもちろんのこと、「また倒してしまうかもしれない」という恐怖心をライダーの心に深く刻み込みます。
この精神的なプレッシャーが、ライディングの楽しさを根こそぎ奪い、「バイクに乗ること自体が苦痛」と感じさせてしまうのです。
私の知人女性ライダー(身長160cm台)が、憧れだったアフリカツインを購入しました。
しかし、納車初日に自宅の駐車場で早速立ちごけ。その後も出先で何度も転倒を繰り返し、結局わずか3ヶ月で手放してしまいました。
彼女は「バイクが怖い もう乗りたくない」とまで言うようになり、見ているこちらとしても非常に辛い思いをしました。
バイクは楽しむための道具です。
しかし、自分の身体能力を大きく超えるマシンは、時に牙をむき、ライダーから楽しみも自信も奪ってしまうことがあるのです。
必須となる立ちごけ対策とそのコスト
それでもアフリカツインに乗りたいと願うのであれば、徹底した立ちごけ対策は絶対必須です。
これはもはやカスタムではなく、安全装備と考えるべきでしょう。
- エンジンガード/クラッシュバー: 転倒時にエンジンや燃料タンク、カウルといった高価な部品を守るための最重要パーツです。ホンダ純正品や、GIVI、SW-MOTECHといったサードパーティ製など様々な種類があり、価格は3万円〜8万円程度が相場です。これがあるだけで、転倒時の精神的・金銭的ダメージを大幅に軽減できます。
- ローシート/ローダウンキット: アフリカツインには純正オプションでローシートが用意されており、約25mmシート高を下げることが可能です。これだけでも足つきは大きく改善します。さらに、サスペンションのリンクプレートを交換するローダウンキットを組めば、さらに20mm〜30mm車高を下げられますが、こちらは走行性能(特にオフロード性能)に影響が出るため、慎重な検討が必要です。これらのパーツ費用と工賃で、5万円〜10万円程度の追加投資を見込む必要があります。
- 厚底ライディングブーツ: ライディングギア側での対策も有効です。ソールの厚いブーツを選ぶことで、物理的に数センチ足つきを稼ぐことができます。
これらの対策を講じることで、立ちごけのリスクは確かに低減できます。
しかし、それは同時に車両価格に加えて10万円以上の追加コストがかかることを意味します。
そして、どれだけ対策をしても、取り回しの重さや、ふとした瞬間の恐怖感が完全になくなるわけではありません。
この「常に転倒の不安と隣り合わせ」というストレスフルな状態が、結果的に「アフリカツインは自分には合わなかった」「乗っていてもつまらない」という結論に至らせる、非常に大きな要因となっているのです。
初心者におすすめとは言えない明確な理由
「ホンダのバイクは乗りやすいから、アフリカツインも大型バイク初心者におすすめですよ」
バイクショップの店員や一部のメディアから、このような言葉を聞くことがあるかもしれません。
確かに、ホンダ車特有のニュートラルなハンドリングや、スムーズなエンジン特性は「乗りやすさ」に貢献しています。
しかし、その言葉を鵜呑みにして、運転免許を取得して間もない、あるいは中型バイクからのステップアップを考えている真の大型バイク初心者がアフリカツインを選ぶことには、私は明確に「待った」をかけたいと思います。
なぜなら、その選択が、あなたの輝かしいバイクライフの始まりを、悪夢に変えてしまう可能性を秘めているからです。
圧倒的な物理的サイズと重量の壁
まず、初心者が直面する最大の障壁は、繰り返しになりますが、その圧倒的な物理的サイズと重量です。
全長2.3m超、全幅90cm超、そして装備重量230kg超というスペックは、数字で見る以上に実車を前にすると強烈な威圧感を放ちます。
教習所で乗ったCB750やNC750とは、全く別の乗り物だと考えた方が良いでしょう。
初心者のうちは、ライディングスキル以前に、バイクの押し引きや切り返し、傾いた車体の引き起こしといった基本的な取り回しに慣れることが重要です。
しかし、アフリカツインでは、この最初のステップでいきなりつまずきます。平坦な場所での押し引きですら汗だくになり、少しでも傾斜があれば一人で動かすのは困難を極めます。
この「自分の力ではどうにもならない」という無力感は、バイクに対する自信を打ち砕き、乗ること自体を億劫にさせてしまいます。
初心者が陥りがちな「負のスパイラル」
- 取り回しが大変で、バイクを出すのが億劫になる。
- 乗る頻度が減るため、いつまで経っても運転に慣れない。
- 慣れないまま乗るため、立ちごけや操作ミスへの恐怖心が募る。
- 結果、バイクに乗るのが「楽しい」ではなく「怖い」になり、ガレージの肥やしとなる。
この負のスパイラルに陥ってしまうと、抜け出すのは非常に困難です。
過剰なパワーと繊細すぎるスロットルワークの要求
次に問題となるのが、初心者には過剰すぎる1082ccのパワーです。ライディングモードで出力を抑えることは可能ですが、それでもスロットル・バイ・ワイヤ(TBW)の反応は極めてリニアです。
これはベテランにとっては意のままに操れることを意味しますが、初心者にとっては、ほんの数ミリのスロットル操作が、予期せぬ急発進やギクシャクした動きに直結します。
特に、渋滞路での極低速走行、Uターン、交差点での右左折といった、半クラッチと繊細なスロットルワーク、そしてリアブレーキを複合的に使う場面では、その難易度が跳ね上がります。
MT車であれば半クラッチでトルクを調整できますが、DCTモデルではスロットル操作が全てです。「思ったより前に出すぎてヒヤリとする」「速度が安定せずフラフラしてしまう」といった経験は、初心者の自信をさらに削いでいきます。
私がバイクのインストラクターをしていた頃、大型免許を取得したばかりの生徒さんから「アフリカツインを買ったんですが、Uターンが怖くてできません」という相談をよく受けました。
彼らに共通していたのは、バイクの大きさとパワーに完全に気圧されてしまい、基本的な操作がおろそかになっている点でした。
まずはもっと軽くてパワーの小さいバイクで「バイクを操る基本」を身体に染み込ませてからでも、アフリカツインへのステップアップは決して遅くはないのです。焦りは禁物です。
アフリカツインが素晴らしいバイクであることに疑いはありません。
しかし、それはあくまで、ある程度のスキルと体格を持ったライダーが乗ってこそ、その真価を発揮するバイクです。
初心者がいきなり背伸びをしてこのバイクを選ぶことは、例えるなら、自動車免許を取り立てのドライバーが、大型トラックで狭い路地に入っていくようなもの。
運転する楽しさを感じる前に、その難しさと恐怖心に打ちのめされ、結果としてバイクという素晴らしい趣味そのものを「つまらないもの」として手放してしまうリスクが、極めて高い選択であると言わざるを得ないのです。
都市部のすり抜けのしやすさは期待外れ
アフリカツインのプロモーションビデオやカタログを見ると、広大な大地や果てしなく続くワインディングロードを駆け抜ける姿が描かれています。
その姿はまさしく「冒険の旅」を想起させ、ライダーの心を高ぶらせます。
しかし、現実はどうでしょうか。多くのライダーにとって、バイクは非日常の冒険だけでなく、通勤や買い物といった日常の足としても機能します。
そして、日本の二輪車利用環境、特に都市部において避けては通れないのが、交通渋滞です。
この渋滞をいかにスマートにクリアできるか、すなわち「すり抜けのしやすさ」は、バイクの利便性を左右する極めて重要な指標ですが、この点においてアフリカツインは、その雄大な佇まいとは裏腹に、ライダーに大きな失望とストレスを与える可能性が高いと言わざるを得ません。
最大の敵は、そのワイドなハンドル幅
アフリカツインのすり抜け性能を著しくスポイルしている最大の要因、それは930mmにも達するワイドなハンドルバーです(Adventure Sportsモデル)
これは、オフロード走行時に大きな入力で車体をコントロールしやすくするための、アドベンチャーバイクとしては理にかなった設計です。
しかし、この設計思想が、車と車の間を縫って走る都市部の渋滞路では、完全な足かせとなります。
都市部の渋滞で最も気を使うのが、乗用車のドアミラーとの接触です。
ネイキッドバイクやスーパースポーツバイクであれば、ハンドルがミラーの下をくぐるか、あるいはミラーとミラーの間を余裕で通過できることが多いでしょう。
しかし、アフリカツインの場合、ハンドルの高さと幅が、多くの乗用車、特にミニバンやSUVのドアミラーとちょうど同じ高さで干渉しやすいのです。
「行けるか…?」と思って進み始めても、ギリギリのところでバーエンドやナックルガードが接触しそうになり、断念せざるを得ない。
後続のバイクに先を譲り、自分だけが車の列に取り残される。この屈辱感とフラストレーションは、経験した者でなければ分からないでしょう。
ミラーtoミラーの現実
一般的な乗用車の全幅が約1,700mm~1,850mm。
ドアミラーを含めると、さらに200mm程度広がります。車線幅が3m~3.5mとすると、車と車の間には理論上1m程度の隙間しかありません。
ここに930mmのハンドルを持つアフリカツインが進んでいくことが、いかにリスキーであるかはお分かりいただけると思います。
車重と大柄な車体がもたらす精神的プレッシャー
物理的な幅だけでなく、230kgを超える車重と大柄な車体そのものも、すり抜け時の精神的なプレッシャーを増大させます。
極低速でバランスを取りながら、左右の車との間隔を常に意識し、前方の車の急な動きにも備えなければなりません。
少しでもバランスを崩せば、隣の車に接触し、立ちごけしてしまうリスクがあります。高級車の横をすり抜ける時などは、冷や汗ものです。
私自身、都内でアフリカツインを試乗した際、あまりのすり抜けのしにくさに辟易した経験があります。
普段乗っているネイキッドバイクなら何てことない道が、まるで障害物コースのように感じられました。結局、すり抜けを諦めて車の後ろでおとなしく待つ時間が長くなり、「これなら車で来た方がマシだったな」とまで思ってしまいました。
この「バイクならではの機動力が活かせない」という現実は、バイクの存在意義を根底から揺るがす、非常に大きな欠点だと感じます。
もちろん、オフロードタイヤを履いてダートを走破する、あるいは三つのパニアケースに満載のキャンプ道具を積んで大陸を横断する、といった使い方を主眼に置くのであれば、この欠点は些細なことかもしれません。
しかし、もしあなたがバイクに、ツーリングというハレの日の楽しみだけでなく、日常の利便性や都市部での機動力も期待するのであれば、アフリカツインのこの「すり抜け性能の低さ」は、購入後に必ず直面する大きな壁となります。
そして、その日々のストレスの積み重ねが、「このバイク、乗るのが面倒くさいな」「つまらないな」という感情へと繋がっていく可能性は、極めて高いと言えるでしょう。
維持費と燃費、リアルなコストに後悔
アフリカツインの購入を決意する瞬間は、夢と希望に満ち溢れています。
しかし、その夢のバイクライフを継続していくためには、車両本体価格という初期投資だけでなく、ガソリン代、税金、保険料、そして定期的なメンテナンス費用といった「維持費」という極めて現実的な問題と向き合い続ける必要があります。
そして、この維持費、特に消耗品の交換費用において、アフリカツインはオーナーの想像を上回るコストを要求することが少なくありません。
「こんなはずじゃなかった…」と、そのリアルなコスト負担の重さに、購入したことを後悔し、バイクライフそのものが「つまらない」と感じてしまうライダーもいるのです。
アフリカツイン最大の消耗品:高価なタイヤ
バイクの維持費の中で、最も大きな割合を占めるのがタイヤ交換費用です。
そして、アフリカツインはこのタイヤこそが「金食い虫」と言える最大のウィークポイントなのです。
その理由は、大きく分けて二つあります。
- 特殊なタイヤサイズ: アフリカツインは、そのルーツであるパリ・ダカールラリーのマシンに倣い、フロントに21インチ、リアに18インチという、オフロードバイク特有の大径ホイールを採用しています。これは一般的なロードバイクで主流の前後17インチとは大きく異なり、結果として選べるタイヤの銘柄が非常に限られてきます。需要と供給の原理から、選択肢が少ない特殊サイズのタイヤは、必然的に価格が高くなる傾向にあります。
- アドベンチャータイヤというカテゴリー: アスファルトでのグリップ力と、ダートでの走破性という、相反する性能を両立させなければならないアドベンチャータイヤは、その開発に高度な技術が要求されます。そのため、タイヤ自体の単価が、同サイズのオンロード専用タイヤと比較して高価に設定されています。
これらの要因が重なり、アフリカツインのタイヤ交換費用は、前後セットで工賃まで含めると6万円〜9万円以上になることも珍しくありません。
一般的な大型ロードバイクが4万円〜6万円程度で済むことを考えると、その負担の大きさは明らかです。
タイヤの寿命は走り方にもよりますが、5,000km〜10,000km程度。年間1万キロ走るライダーであれば、毎年この高額な出費が待っている計算になります。
以前、ツーリング先で知り合ったアフリカツインオーナーが、「次の車検とタイヤ交換が同時に来るんだけど、20万円近くかかりそうで頭が痛いよ…」と嘆いていました。
彼はその費用を捻出するために、しばらくツーリングを控えると言っていました。
バイクを楽しむために買ったはずなのに、その維持費のために乗るのを我慢しなければならない
。これは本末転倒であり、バイク趣味の楽しさを根底から覆しかねない深刻な問題です。
見落としがちな、その他の維持費
タイヤ以外にも、アフリカツインならではのコスト増要因は存在します。
アフリカツインの維持コスト一覧(目安)
- エンジンオイル交換: 1100ccの大排気量エンジンは、オイル交換に必要な量も多くなります(フィルター交換時で約4.2L)。DCTモデルはクラッチ用のフィルターも別で必要となり、部品代・工賃ともにMTモデルより高くなります。
- ドライブチェーン・スプロケット: 強大なトルクを受け止めるため、チェーンやスプロケットの消耗も早めです。こちらも交換となれば、部品・工賃で4万円以上の出費は覚悟すべきでしょう。
- 燃費: WMTCモード値でリッター20.5km/L(DCT)と、このクラスとしては決して悪くない数値ですが、絶対的な燃料消費量は中型バイクとは比べ物になりません。ツーリングに出れば、ガソリン代も着実にお財布を圧迫します。
- 車検費用: ディーラーに法定点検を含めて依頼すれば、消耗品の交換がなくとも10万円前後は見ておく必要があります。
もちろん、これらのコストは他のリッタークラスのバイクでもある程度は共通するものです。
しかし、特にタイヤという避けられない高額消耗品の存在が、アフリカツインのランニングコストを押し上げているのは紛れもない事実です。
「憧れ」だけで飛びついてしまうと、この現実的な金銭負担が重くのしかかり、ツーリングに行く回数が減り、カスタムにお金を回せず、次第にバイクへの情熱が薄れていく…という悲しい結末を迎える可能性があります。
購入前には、必ずこの「リアルなコスト」を織り込んだ上で、自分の経済力で本当に維持し続けられるのかを冷静にシミュレーションしてみることが、後悔しないための絶対条件です。
中古で買う前に知るべき選び方の注意点
昨今のバイク新車価格の高騰を受け、「憧れのアフリカツインを、少しでも安価な中古車で手に入れたい」と考えるのは、ごく自然な発想です。
確かに、中古車市場には様々な年式や走行距離のアフリカツインが流通しており、魅力的な価格の個体を見つけることも可能でしょう。
しかし、その魅力的な価格の裏には、素人目には見えにくいリスクが潜んでいる可能性も少なくありません。
安易に価格だけで中古車を選んでしまうと、購入後に次々と不具合が発生し、修理費用がかさんで結果的に新車を買うより高くついてしまった…などという「安物買いの銭失い」に陥りかねません。
ここでは、中古のアフリカツイン選びで後悔しないために、絶対に押さえておくべき選び方の注意点を徹底的に解説します。
最大のポイント:CRF1000LとCRF1100Lの決定的な違い
中古のアフリカツインを探す上で、まず最初に理解しなければならないのが、2019年まで生産されていた旧型の「CRF1000L」と、2020年以降の現行型である「CRF1100L」の間に、大きな世代交代があるという事実です。
単なる排気量アップ(998cc→1082cc)だけでなく、その中身は全くの別物と言っていいほど進化しています。
項目 | CRF1000L (~2019) | CRF1100L (2020~) |
---|---|---|
電子制御の心臓部 | IMU(慣性計測ユニット)なし | 6軸IMU搭載 |
メーター | 反転液晶モノクロメーター | 6.5インチTFTタッチパネルカラー液晶 |
ライディングモード | 3種類+USERモード | 4種類+USERモード2種類 |
追加機能 | – | コーナリングABS, ウイリーコントロール, クルーズコントロール等 |
Apple CarPlay/Android Auto | 非対応 | 対応(※一部モデル/年式) |
最も決定的な違いは「6軸IMU」の有無です。
IMUは車体の姿勢角や加速度を検知するセンサーで、これにより、コーナリング中に適切な制動力を発揮する「コーナリングABS」や、過度なフロントアップを抑制する「ウイリーコントロール」といった、より高度で安全な電子制御が可能になりました。
また、フルカラーのTFTメーターは、情報の視認性や設定のしやすさ、そして何より所有欲を大きく満たしてくれます。
価格の安さに惹かれてCRF1000Lを選んだものの、後に友人のCRF1100Lに乗って、「こんなに違うのか…」と電子制御の進化に愕然とし、買い替えを検討する、というケースは少なくありません。
逆に、「電子制御はシンプルな方が良い」と考えるベテランライダーにとっては、あえて1000Lを選ぶという選択もアリです。
重要なのは、この違いを明確に理解した上で、自分の価値観に合ったモデルを選ぶということです。
オフロード走行歴の見極め方
アフリカツインの宿命として、その高いオフロード性能ゆえに、林道ツーリングや、時にはエンデューロコースのようなハードな環境で使われていた可能性が常にあります。
オフロード走行は、オンロード走行とは比較にならないほど車体にダメージを蓄積させます。
見た目が綺麗に洗車されていても、見えない部分に深刻な問題を抱えているケースがあるため、以下のポイントを重点的にチェックする必要があります。
- 車体下回り: 最も分かりやすいのが、エンジン下部を守るアンダーガード(スキッドプレート)です。ここに大きな傷や凹み、変形がある場合、岩や丸太などにヒットした経歴がある証拠です。フレーム下部にも同様の傷がないか、ライトを当てて覗き込みましょう。
- ステップ周り: 転倒すると、ステップやブレーキペダル、シフトペダルが地面に接触し、削れたり曲がったりします。先端が不自然に削れている場合は要注意です。
- ホイールリム: オフロードで空気圧を下げて走行すると、段差などでリム打ちし、リムが凹んだり歪んだりすることがあります。タイヤを一周させながら、リム全周に大きな変形がないか確認しましょう。
- サスペンション: フロントフォークのアウターチューブに傷がないか、インナーチューブからオイルが漏れていないかを入念にチェックします。オイル漏れはシールの劣化を意味し、修理には高額な費用がかかります。
私が中古車査定士として働いていた時、一見すると極上に見えるアフリカツインが入庫しました。
しかし、細部を点検すると、アンダーガードの内側が泥で固まっており、フレームには擦り傷が。オーナーに尋ねると、やはりオフロードコースをかなり走り込んでいたとのこと。
このように、巧妙に隠された「戦歴」を見抜くには、表面的な綺麗さだけでなく、細部への鋭い観察眼が求められます。
これらのポイントを自分自身でチェックする自信がない場合は、必ず信頼できるバイクショップで購入することが、後悔を避けるための最善策です。
「現状販売」や「保証なし」といった格安車両には、それなりの理由があります。
少し価格が高くとも、整備記録がしっかりと残っており、販売後の保証が付いている車両を選ぶことが、結果的にあなたのバイクライフを豊かで「つまらなくない」ものにしてくれるでしょう。
総括:これがアフリカツインのつまらない欠点まとめ
これまで、ホンダ アフリカツインが一部のライダーから「つまらない」と評される理由や、購入後に後悔しやすい具体的な欠点について、技術的な背景や実際の体験談を交えながら、多角的に掘り下げてきました。
アフリカツインが、優れた技術と哲学に基づいて作られた素晴らしいバイクであることは間違いありません。
しかし、その魅力が、ある価値観を持つライダーにとっては、逆にデメリットや退屈さとして映ってしまうのもまた事実です。
最後に、この記事で解説してきた「アフリカツインのつまらない欠点」を、購入を検討しているあなたが最終判断を下すためのチェックリストとして、以下に総括します。
- 万能性ゆえの刺激の欠如:どの性能も高水準でまとまっている反面、突出した刺激や官能的な「癖」が感じられにくい。
- 優等生的なキャラクター:ホンダらしい信頼性と扱いやすさが、バイクにスリルや対話性を求める層には「没個性的」と映る。
- 期待を裏切る穏やかな加速:1100ccという排気量から想像される暴力的な速さはなく、あくまでスムーズでジェントルなパワーフィール。
- 効率的すぎるエンジン:低中速トルク重視の270度位相クランクエンジンは、高回転まで回して楽しむタイプのエンジンではない。
- DCTによる操る楽しみの減少:クラッチ操作とシフトチェンジという、バイクライディングの根源的な楽しみが自動化されてしまう。
- DCTのマニュアルモードの限界:スイッチ操作は可能だが、クラッチがないためMT車のようなダイレクトな操作感は得られない。
- 快適すぎるがゆえの退屈さ:完璧な防風性能や振動抑制が、路面やエンジンからのインフォメーションを希薄にし、「移動するだけ」の感覚に陥りやすい。
- ライバルGSとの個性の差:BMW GSが放つ圧倒的なステータス性や所有欲、ボクサーエンジンという強烈な個性と比較すると、キャラクターが地味に感じられる。
- 圧倒的な重量とサイズ:230kgを超える車重は、特に小柄なライダーや女性にとって、取り回しや立ちごけの大きなリスクとなる。
- 恐怖心との闘い:常に立ちごけの不安がつきまとうという精神的ストレスが、ライディングの楽しさを削ぐ要因になる。
- 必須となる追加コスト:立ちごけ対策としてのエンジンガードやローダウンには、10万円以上の追加投資が必要になる。
- 真の初心者には不向き:過剰なパワーと車体の大きさは、初心者がバイクの基本を学ぶ上で高いハードルとなり、挫折の原因になり得る。
- 都市部での機動力の低さ:ワイドなハンドル幅が原因で、日本の道路事情における「すり抜け」が非常に困難であり、日常使いで大きなストレスを感じる。
- 高額な維持費:特にフロント21/リア18インチという特殊サイズのタイヤは非常に高価で、ランニングコストを押し上げる最大の要因。
- 中古車選びの難しさ:1000Lと1100Lの世代間の大きな違いや、オフロードでの過酷な使用歴を見抜く必要があり、安易な選択は危険。